PMV (Predicted Mean Vote)

Fanger は人体の温冷感を 気温、湿度、周囲の放射温度、着衣量、代謝量の関数 PMV (Predicted Mean Vote) で把握する方法を提案し、 ISO 7730 が採用、ASHRAE でもこの 7 段階スケールを使っている。

人体の温熱環境を着衣量(クロ値)、代謝量(メット値)、空気温度、周囲からの放射温度、 気流(風速)、湿度を考慮した、 人体の発熱量と放熱量が等しくなる条件が neutral で、 放熱不足なら sleightly warm, warm, hot の 3 段階、 過剰なら sleightly cool, cool, cold の 3 段階と評価する。

工学的には、人体の代謝量、着衣の基礎熱抵抗、着衣面積比、気温、湿度、 人体周辺の平均放射温度、風速、人体の不感蒸泄量、呼吸による潜熱損失量、 呼吸による顕熱損失量、人体からの放射熱損失量、対流熱損失量を計算している。

clo 値は裸体で 0.0、パンツ一つで 0.1、夏服の軽装で 0.6、 春秋の服装で 1.0、冬期の服装で 2.0 といったスケール。

met 値は椅子に静かに座っていて 1.0、立ち仕事で 1.4、 荷物を持って歩く時 3 といったスケールになっている。

met 値はいろいろな状況に置ける実測値が公表されているが、 clo 値は衣服の組合せの数が多いこともあって、公表データが少い。

  (M - W) - Ed - Es - Ere - Cre = K                   (1)
  K = R + C                                           (2)
  K = (ts - tcl) / (0.155 * Icl)                      (3)
  ここに、
	M = 代謝量  [W/m^2]
	W = 機械的仕事量 〜 0  [W/m^2]
	Ed = 不感蒸泄量  [W/m^2]
	Es = 蒸発熱損失量  [W/m^2]
	Ere = 呼吸による潜熱損失量  [W/m^2]
	Cre = 呼吸による顕熱損失量  [W/m^2]
	K = 衣服を通る熱損失量  [W/m^2]
	ts = 平均皮膚温度  [℃]
	fcl = 着衣面積比
	Icl = 着衣の基礎熱抵抗  [clo] (1 clo = 0.155 ℃*m^2/W)
	R = 放射熱損失量  [W/m^2]
	C = 対流熱損失量  [W/m^2]
	tcl = 着衣表面温度  [℃]
	hc = 対流熱伝達率  [W/(K*m^2)]
	v = 平均風速  [m/s]
また
    ts = 35.7 - 0.028 * (M - W)  [℃]
    Es = 0.42 * (M - W - 58.15)  [W/m^2]
    Ed = 3.05e-3 * (5733 - 6.99 *(M - W) - Ps)
    Ere = 1.7e-5 * N * (34 - Ps)
    Cre = 0.0014 * M * (34 - ta)
    R = 3.96e-8 * fcl * (tcl + 273)^4 - (tr + 273)^4)
    C = fcl * hc * (tcl - ta)
    hc = max(2.38 * (tcl - ta)^0.25, 12.1 * sqrt(v))
    fcl = (Icl < 0.5 * clo) ? 1.00 + 0.2 * Icl : 1.05 + 0.1 * Icl
    ここに、
	ta = 空気温度  [℃]
	tr = 平均放射温度  [℃]
	Pa = 水蒸気圧  [Pa]
の関係と (2), (3) 式から
  tcl = 35.7 - 0.028 * (M - w)
	- Icl * (3.96e-8 * fcl * ((tcl + 273)^4 - Tr + 273)^4)
	+ fcl * hc * (tcl - ta))
を数値解法で解けば、(1) 式のすべての変数が計算できて、 人体の不平衡熱は
	L = (M - F) - (Ed + Es + Ere + Cre) - (R + C)
	ここに
	L = 人体の不平衡熱  [W/m^2]
となる。 (注1)

Fanger はこの熱不平衡値の値が暑さ寒さの指標として使えることを実証し、 PMV (Predicted Mean Vote) を開発した。

  PMV = (0.303 * exp(-0.036 * M) + 0.028 * L
  ただし下記の条件を満たす必要がある。
	46 W/m^2 <= M <= 232 W/m^2  (0.8 met to 4 met)
	0 m^2*K/W <= Icl <= 0.310 m^2*K/W  (0 clo to 2 clo)
	10 ℃ <= ta <- 30 ℃
	10 ℃ <= tr <- 40 ℃
	0 <= v <= 1 m/s
	0 <= Pa <= 2790
  PMV の評価は
	+3 暑い (hot)
	+2 暖かい (warm)
	+1 やや暖かい (slightly warm)
	 0 どちらでもない (neutral)
	-1 やや涼しい (slightly cool)
	-2 涼しい (cool)
	-3 寒い (cold)
PPM = 0 が熱的中立になるが、 不快感をもつ人の割合 PPD (Predicted percentage dissasfied) は
  PPD = 100 - 95 * exp(-0.033 * PMV^4 - 0.2179 * PMV^2)  [%]
で近似できて、 PPD が 10 % 以下になる -0.5 < PMV < +0.5 の範囲を快適推進域とした。 つまり、10 人に 1 人は快適と感じない。

水蒸気圧は気温と相対湿度から Tetens 式

  Pa = 6.1078 * 10 ^(7.5 * ta / (ta + 237.3)) * rh
  ここに
	Pa = 水蒸気圧  [Pa]
	ta = 気温  [℃]
	rh = 相対湿度  [%]
あるいは Wagner 式
  x = 1 - (t + 273.15) / 647.3
  y = (-7.76451 * x + 1.45838 * x^1.5 - 2.7758 * x^3 - 1.23303 * x^6) / (1 - x)
  Pa = 22120 * exp(y) *1e3 * rh * 1e-2
で計算できる。

Hc は C.E.A.Winslow の式。

人間の代謝量は基礎代謝量 58.2 W/m^2 を 1 とした met 単位で表示 されることが多く、 人間が着ている衣服の熱抵抗は 0.155 m^2*℃/W を 1 とした clo 単位で表示されることが多い。

典型的衣服組合せのクロ値と様々な活動時の代謝量

注1 - fcl の計算

放熱不足なら活動量を減らすとか、着衣を変えるとか、気温や放射温度を下げるとか、 風速を上げるとか、湿度を下げるとかすることになる。 それが無理なら熱中症で死亡する。

放熱過多なら、これとは逆の対策を考えるしかないが、 それができなければ凍死することになる。

なお、ISO 7730 では、Icl を clo でなく m^2*K/W 単位で扱っているため、 fcl の計算を

  fcl = max(1.00 + 1.290 * Icl, 1.05 + 0.645 * Icl)
としている。

注2 - 基礎代謝

ハリス・ベネディクト方程式(改良版)

  男性: 13.397×体重kg+4.799×身長cm−5.677×年齢+88.362
  女性: 9.247×体重kg+3.098×身長cm−4.33×年齢+447.593