同軸ケーブルの減衰を決める導体の交流抵抗として、よく、
R = sqrt(π*f*μ/σ)/(2*π)*(1/a + 1/b) ここに、 R = 同軸ケーブルの高周波抵抗 (Ohm/m) f = 周波数 (Hz) μ = 透磁率 (H/m) σ = 導電率 (S/m) σ = 導電率 (S/m) a = 内部導体外径 (m) b = 外部導体内径 (m) π = 3.14159265.. 軟銅導体なら、 R = 4.152e-8*(1/a + 1/b)といった式が多くの文献に掲載されていますが、これは 中心導体は単線、外部導体の厚さを無限大の円筒(空洞)として計算された ものです。
外部導体の厚さが有限の場合はもっと複雑になりますが、円筒導体なら解析的計算 が可能です。しかし、いずれにしても、交流抵抗が解析的に計算できるのは円筒導体 だけですから、編組による外部導体のように複雑な構造では、基本的な構造が似ている 円筒導体の交流抵抗からの工学的近似で交流抵抗を求めることを考えるのが最初の 一歩になります。
最も簡単なのは、
Kb = 編組導体の交流抵抗 / 同じ内外径の円筒導体の交流抵抗 (1.1)として、Kb を求めることを考えるというアプローチで、比較対象の円筒導体の厚さは 編組の素線径の2倍とします。(注1)
侵入の深さ(δ) が素線径に比べて十分大きいときは、Kb は編組と同じ厚さ(素線径の 2倍)の円筒と編組導体の断面積の差と、撚込係数の違いだけになりますから、
Kb = π*D1*2*d/(π/4*m*n*d^2*k) (1.2) ここに π = 3.14159265.. D1 = 層芯径 (m) d = 素線径(doameter of each wire) (m) m = 編組の持数(number of spindles) n = 編組の打数(number of wires) k = 編組の撚込係数ここで、編組のフィリング・ファクタ Kf が
Kf = m*n*d*k/(2*π*D1) (1.3)であることを考慮すると、
Kb = (4/π)*k^2/Kf (1.4)が得られます。ちょっと考えると、k の自乗に比例するみたいで変ですが、これは Kf が k に比例するのが原因です。Kb の値が最小になるのは k = Kf = 1 のとき ですかた、Kb は 4/π=1.273 以上になります。
通常の編組なら、例えば 100 MHz と言った周波数で、侵入の深さ(δ)が素線径に 比べて十分小さいときは、編組素線には、素線の中心導体側を素線の長さ方向に 沿って流れる電流以外に、中心導体を取り巻く磁束を打ち消すように、素線表面に 素線断面を斜めに1周するような循環電流が流れます。この循環電流が流れる面は 同軸ケーブルの断面と平行ですから、素線の長さ方向とは acos(k) の角度になり ます。(注2)
この循環電流による損失が高周波に於ける編組導体の余分な抵抗になりますが、こ れらを考慮したMildnerの経験式(注3)
Kb = k^2/(2*Kf) + π*k^2*Kf/4/(1 + 2*a + a^2) (1.5) ここに a = δ*k^4/(2*π*d*(k^2 - 1)) δ = sqrt(1/(π*f*μ*σ)) f = 周波数 (Hz) μ = 透磁率 (H/m) σ = 導電率 (S/m) σ = 導電率 (S/m) 軟銅導体なら δ = 6.61e-2/sqrt(f)が多くの同軸ケーブルの実測値とよく合います。
実際の測定データから、多くの実在の同軸ケーブルについて、この値を求めてみると、 Kb の値はケーブルのサイズに深く関係していて、下記のような傾向があるようです。 最低でも 1.273 以下にはならないことを忘れないでください。
誘電体径(mm) | 20 | 17 | 8.4 | 7.2 | 3.2-3.7 |
---|---|---|---|---|---|
Kb | 3.5 | 2.8 | 2.25 | 2.00 | 1.75 |
上記の中間領域では編組の素線を流れる電流は極めて複雑で、簡単な式は作れません が、(1.4) と (1.5) の中間の値になることは明らかですから、周波数に対する Kb の変化をグラフ化して目の子で推定する程度で間に合うのが普通です。
編組でなく横巻導体の場合も、以上の議論は基本的に同じですから、 フィリング・ファクタを横巻の
Kf = n*d*k/(2*π*D1) (1.3) ここに n = 素線数と置き換えるだけで同じ結果が使えます。
実際の編組の厚さは導線が密着しないため、「素線径*2*1.25」程度になります。
同軸ケーブルの編組外部導体の素線は中心導体と平行ではありませんから、S方向の 素線とZ方向の素線をベクトル的に合成した電流が内部導体を流れる電流と同じ大きさ で逆方向になります。つまり、編組の素線に流れる電流の絶対値は内部導体の電流 より大きくなって、編組角が大きいほど導体損失が増えます。
また、S方向の素線とZ方向の素線は幾何学的に対称ですから、交差点に於ける素線の 電位は等しく、交差点をまたぐ電流は存在しませんから、外部導体全周を流れる 循環電流は考慮しなくても済みますが、素線のケーブル断面に平行な断面を流れる 楕円形の循環電流が存在しますから、これも円筒導体に比べて損失が増える原因に なります。
注意 - 素線の交点を通る電流が存在しないのは同軸ケーブルの外部導体の幾何学的 対称性によるものですから、多対ケーブルの総合シールドとか、偏芯した同軸ケーブ ルでは交差点を通る電流が存在して、大きな減衰が発生します。
Mildner,R.C.- Developments in high frequency cables (Elect. Radio Trading, 23, No.258, May, 1951, 77-81) Mildner,R.C.- DEvelopment in high frequency cables (J. Brit. Inst. Radio Engrs, Feb., 1953, 113-21)
平林 浩一, 1999-06-22